ぐるりのこと。@シネマライズ (2008/日本/橋口亮輔)

sheepthief2008-06-13


ひさしぶりに用事があって夕方から都心に出たら、急遽キャンセルになって、このまま帰るのはいかにも腹立たしいと思った金曜日。

ハッシュ! [DVD]の監督さんの新作がはじまってると聞いて、ちょうどいいやと思って、見に行った。

予告以上の予備知識もなく見に行って、「こどもの死」→「妻の鬱発症」→「それを乗り越える夫婦」、
さらに「夫が法廷画家としてみる世相」ていうふうなおぼろげなキーワードを意識してしまうとすごくテーマがあれなようだけど、
その実、適度なしあわせが満ち満ちたすてきな映画だった。


わたしは普段、
結婚とか同棲とか、べつに、どっちでもいい、っていうか、どっちかっていうと、まだ、めんどくさい、かな、
などと思っているひとりだったりするけれども、
それでも、純粋に、
ひととくらすって、たしかにめんどくさいけど、ものすごく「いい」ことだなぁと思った。


そして、そういった「夫婦」の間の「ぐるりのこと」だけじゃなくて、「法廷画家」というカナオ(リリー・フランキー)の職業その他を通じて、「社会」における「ぐるりのこと」も描かれているのがまたよい。
90年代のよく言う閉塞感?みたいなものは、正直私ぐらいの歳だとあんまり覚えてもいないけれど、
法廷シーンに出てくるぐらいの事件はどれも記憶ないし知識があるし、
あとはショウコ(木村多江)のお母さん(倍賞美津子)の家の「壷」とか、
どんどん羽振りが悪くなっていく寺島進安藤玉恵の兄夫婦(@不動産業)とかが、
アイコンとして非常に「効いて」いた。



映画にかぎらずあまねく「演技」はもともとつまるところは「うそ」なのだけれど、
橋口監督のとるシーンには、その「うそ」感があんまりないんだなーと思った。

主演のふたりに負うところも多いのかもしれないけど、
会話や、もっと言えば空気感に、「演出されている」感じがない。


台風の夜、ショウコが泣きじゃくって、暴れたあとで、
カナオがショウコの顔に一旦手をそえて、ちょっと笑って、
そのあと「キスしようと思ったのに、鼻べちょべちょやん」というようなことをいうところがあるのだけれど、
たいていの映画では、あんなセリフなしに「美しく」キスをしてしまうところだと思う。
それが、あのひとことがあるおかげで、佇まいがなんだかすごく好いものになっている。


「リアル」とか、そんな言葉では形容したくないぐらいに。


「リリーさんが変なアートごころだしてなきゃいいなぁ」などと、はじまる前にぼんやり思っていた自分を恥じました。
不必要にキャラづいていない、「ふつう」の中年な感じがとても良かった。おみそれしました。


主演以外もキャスティングが全部はずしてなくて、
法廷の控え室?のシーンの、寺田農柄本明以下名優競演な感じも、
いろんな被告人役の、今となっては豪華俳優陣(加瀬亮新井浩文片岡礼子)もさすがのひとこと。


満喫して、そのまま幸せな気分で、にやにやして井の頭線に乗って帰った。
また5年後とか、10年後とか、歳を重ねるにしたがって自分の中で見方の変わる映画かもしれない、と思います。